最高裁判所第一小法廷 平成5年(行ツ)61号 判決 1994年2月10日
岐阜市六条大溝三丁目一番一七号
上告人
株式会社 ピースター商事
右代表者代表取締役
高橋成典
右訴訟代理人弁護士
横山文夫
岐阜市加納清水町四丁目二二番地の二
被上告人
岐阜南税務署長 蒲谷暲
右指定代理人
須藤義明
右当事者間の名古屋高等裁判所平成四年(行コ)第二二号青色申告承認取消処分取消請求について、同裁判所が平成五年一月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人横山文夫の上告理由及び上告人の上告理由について
本件青色申告承認取消処分に対する異議申立てが被上告人において受理される前に撤回されているので、本訴請求は不服申立ての前置を経ておらず不適法である、とした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨はいずれも採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 大堀誠一 裁判官 三好達 裁判官 大白勝)
(平成五年(行ツ)第六一号 上告人 株式会社ピースター商事)
上告代理人横山文夫の上告理由
一、〔法令違反〕
原判決は税理士法三一条、国税通則法一〇七条2、3項の解釈につき誤りを犯し、かつ経験則に違背するところ右誤り等は判決に影響を及ぼすものである。
1、(本件異議申立て書は受理されている)
本件異議申立書は昭和六二年一二月一四日に郵送され、翌一二月一五日に岐阜南税務署に配達されたことは当事者間に争いがなく原判決もこれを認定するところである。
ところが原判決は「控訴人(原告)は木村税理士に対し、本件異議申立書の封入された本件封書を受理しないよう被控訴人(被告)に伝達し、本件封書を取り戻す権限を与えており、木村税理士は控訴人の使者として、岐阜南税務署副署長の和田にこれを伝達し、同人の了解を得た上、同税務署に配達されたままで受理手続に入っていない状態の未開封の本件封書を岐阜南税務署から持ち帰っているのであって、そうしてみると、本件処分に関する異議申立ては、被控訴人において受理される前に撤回されたものと認められ、受理の効力は生じていないものというべきである。そしてこのような事実関係の下においては、被控訴人に本件封書を開封したうえ、本件異議申立書を受理すべき義務があったということはできない。」と認定し、被控訴人は本件異議の申立書を「受理もしていないし、受理する義務もない」という。
右原判決が述べる本件異議申立書の「受理」とは何かが問題であるが、本件異議の申立手続が適法になされたかどうかの問題であると解するとすれば、本件異議申立書が郵便局員により一二月一五日に岐阜南税務署へ配達された時点で適法な異議申立があったと解するべきである。
これには多数の判例が存するが、例えば東京高裁昭和三三年三月三一日判決(高民一一・三・一九七、判時一四九号、一三頁)は、官庁の文書取扱規定により文書受理の権限が特定の部課ないし係にのみ与えられている場合でも、同庁のいずれか職員に審査請求書が手渡されたときは、これにより審査請求があったというべきである。と判示し、最判昭三三・五・二四(最民一二・八・一一五)では、異議申立人が仮に提出先を間違えた場合でも適法な再調査請求があったものとして扱うべきものとする、としている。
本件の場合のように異議申立書が岐阜南税務署に郵送された後、天災地変又は第三者の行為の介在により本件異議申立書が滅失又は毀損した場合等を想定すれば、このような場合には適法な異議申立がなされたとみなすべきことは当然のことである。
2、(木村税理士の関与)
問題は、本件の場合、原判決が認定するように(但し上告人は上記事実については強く争ってきた)本件異議申立書の取扱いについて木村税理士が介在し、木村税理士の申し出又は懇願により本件異議申立書が通常受理手続をなすことなく放置されたうえ木村税理士により取り戻された場合をどのように考えるべきか、である。
この点について原判決は、前記のとおり一方で「本件封書を受理しないよう被控訴人(被告)に伝達し、本件封書を取り戻す権限を与えており」と認定し、他方で「木村税理士は控訴人(原告)の使者として」「伝達し」「(本件封書を)持ち帰っている」と認定している。本件異議申立書は前記のとおり木村税理士の関与がなければ、岐阜南税務署としては郵送されてきた異議申立書について通常どおりこれを受理しているのであるから、仮に原判決の事実認定を前提とするにしても、本件異議申立書は一旦被上告人により受理され、その後取り下げられたと解すべきである。
又受理手続がなされていないことをもって未だ受理されていない、と解する余地があるとしても本件異議申立書は郵送された時点で通常適法な異議申立があったとされるのであるから、被上告人としては受理手続をなしたうえ、これを法律に定められた方法により取り下げさせるべきであった。
原判決はこれらの点について本件異議申立書は「受理」もされていないし、「受理する義務」もない、と判示する。しかし、これらの解釈は、明らかに前記判例に反する不当なものである。
3、(税理士法三一条、国税通則法一〇七条2項の趣旨)
税理士法三一条は「税理士は、税務代理をする場合において次の行為をするときは特別の委任を受けなければならない」と規定し、その一号において「不服申立ての取下げ」を明示している。
又国税通則法一〇七条2項は「代理人は、各自不服申立人のために、当該不服申立に関する一切の行為をすることができる。ただし不服申立の取下げ及び代理人の選任は、特別の委任を受けた場合に限り、これをすることができる。」と規定し、同法同条3項は、「代理人の権限は書面でこれをしなければならない。前記ただし書に規定する特別の委任についても同様とする。」と規定している。
これは要するに、関与税理士が不服申立の取下手続をなす場合には、その旨の権限が明示された書面によりこれをなさなければならない、というものであって、不服申立の取下手続は、不服申立人の一切の不服申立の権利を喪失させ、かつ原処分を確定させる効力を有するものであるところから、特にその手続を慎重かつ嚴重にして、ひいては不服申立人の憲法三一条、三二条に定められた適正な手続を保障させたうえ、最終的に裁判所で裁判を受ける権利を実質的に保障する趣旨と解するべきである。
4、(本件の場合をどのようにみるべきか)
本件の場合には、原判決は、本件異議申立書が郵送されても、税理士は電話一本でその「受理手続」を差し止めたうえ、当該異議申立書を取り戻す権限を有する、と判示する。
これは明らかに前記各条項と抵触するものである。又直接抵触しないとしても、税理士がなす右行為は、異議申立の取下と何らかわるところがないのであるから、その趣旨を著しく損なう違法な解釈である。
よって本件のように適法に異議申立書が被上告人に郵送された場合には、これをもって適法な異議申立があったのであり、関与税理士が異議申立を取り下げる場合には、その旨の授権書面を提出してこれをなさなければならないのである。原判決はこの点で前記各条項の解釈を誤っており、破棄を免れない。
猶被上告人が郵送されてきた封書の内容が異議申立書であることを確知していたことは一件記録により明らかである。
以上
(平成五年行ツ第六一号 上告人 株式会社ピースター商事)
上告人の上告理由
不当な更正処分により、(株)ピースター商事の所有の岐阜市六条大溝三丁目一の十七にある土地・建物は、昭和六三年一一月一二日国税局当局の差押えに合い、銀行の借入ができなく、資金繰りがつかないので、売り上げも現在では、三分の一に減少してしまた。今、なんとか営業を維持するのが精一杯の状態である。競売になれば、会社は倒産の道しか残されていません。本来、この次案は、税務当局が、納税者の説得と納得に勤め課税するのが民主国家での租税主義であるが、それから逸脱し、岐阜地方裁判所及び名古屋高等裁判所はいずれも事実誤認している。
その第一には、
青色取消が有効との事実である。岐阜南税務署法第五三八号の「青色取消通知書」の記載にある昭和五六年分からの調査は、なく、昭和五九年分・昭和六〇年分・昭和六一年分の調査を受けたのみであり、この三年分の調査完了のあと、税務署に突如、呼び出され、調査とも告げず「リベートをもらっているのではないか」の追及であった。当時、片山(株)との仕入れの時、手形決済の保証として、実際の仕入れ代金に一割りのせ、決済をしていた。その後、約一二〇日後に、出張のおり、現金で貰ってきた。帳簿は、雑収入に計上しており、私は、自分の金を帰してもらっているとの認識であり、当時、税務署当局が私に脱税者扱いでなく、なんのことか説明しておれば、解決できたはずである。又、現在、南税務署に、問題になっている帳簿・振替伝票のコピーを預け、検討するよう要請しました。原告は、南税務署の平成五年二月一五日付けの借用書を保管している。この事実からしても『青色の取消し』理由に該当しないことは、明らかである。
その第二には、
昭和六二年一二月一四日の夜、税理士との電話のやりとり(私は、拒否した)のみで、「異議の申立」書を取下げている事実である。この場合、委任については、別の委任状が必要であるにもかかわらず、委任状も税理士は、とらなかったし、その事の問い合わせも税務当局からなかった。下げさせた行為は、税理士法・所得税法・国税通則法・法人税法の規定にも違反するものである。決して、異議の取下げ・不服審査請求の取下げは、決算・税務行為の普通の委任状で代用ができないにもかかわらず、事足りるとは、税理士に得権を与えるものであり、税理士法の理解がされていない。
その第三には、
税務当局が、「封を開けていないから」異議申立は、無効との判断である。税務当局には、納税者宅に差し置くだけでも更正処分ができる規定があるにもかかわらず今回の判決は、納税者に一方的な不利を課すもである。そもそも異議の申立制度は、税務当局から納税者の救済制度性格からも郵便物の送達でも有効である。まして、「書留め郵便」であれば、有効である。
確定申告の有効期限でさえ、郵便局の消印の日と認定されているにもかかわらず、この事案だけ、無効とは、法律の解釈が間違っている。
その第四には、
岐阜地方裁判所・名古屋高等裁判所の判決文は、いずれも法人税法・所得税法・国税通則法の吟味がされておらず、名古屋高等裁判所にあたっては、判決文が原告に対して、非常に不親切であり、意味が理解できない判決文であった。
本来、裁判所は、国民に開かれた裁判所であると私は、思っていました。上告にあたり、法律に照らして、よく吟味されるよう要望します。
以上